読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
眼科で「眼筋型(がんきんがた)筋無力症」ではないかと言われました。1つのものが2つに見え、右の眼球と左の眼球が片方は上にあるのに、もう一方は下にある状態です。治療法を教えてください。(53歳男性)

この相談に対して、筑波大病院眼科教授である大鹿哲郎先生は、以下のようにお答えになっています。
「筋無力症」は、神経から筋肉に信号を送る部分に異常が生じ、筋肉の力が弱くなって疲れやすくなる病気です。疲れると症状が悪化し、休息すると症状が改善します。全身の筋肉に症状が出ますが、目の症状だけにとどまるタイプがあり、これを眼筋型といいます。

瞼が下がって開かない「眼瞼下垂(がんけんかすい)」、物が2重に見える「複視」、左右の視線の位置がずれて焦点が合わない「斜視」などが起こります。

横紋筋(筋のうち、筋線維に縞模様のみられるものをいう)の易疲労性と休息、抗コリンエステラーゼ(ワゴスチグミン、テンシロン)によって一時的な機能回復を特徴とする神経筋疾患を重症筋無力症といいますが、その中で眼症状(眼瞼下垂、眼球運動障害、複視)のみで全身症状(四肢脱力、球症状など)を来さないものを「眼筋型筋無力症(眼筋無力症)」といいます。

原因は、神経筋接合部の後膜のニコチン性アセチルコリン受容体に対する抗体が後膜に結合して進行することで、神経筋伝達障害を主体とする自己免疫疾患です。成人だけでなく3歳以下の幼児にも好発し、視力発達障害(弱視)が問題となります。

治療としては、以下のようなものがあります。
まず、血液検査などによって筋無力症であることを確定診断してください。

治療は、抗コリンエステラーゼ薬の内服を第一選択として、効果がなければステロイド薬を用います。まひ性斜視に対しては薬物療法を行い、効果がなければ手術による矯正を行います。

眼筋型では、過半数で全身型への進展がみられるので、注意深い経過観察が必要です。軽症で抗体が陰性またはきわめて低く胸腺腫大のない例は無治療または抗コリンエステラーゼ薬のみで1〜2年間経過観察します。

作用時間が約4時間と短い臭化ピリドスチグミン(メスチノン)と、約8時間と長い塩化アンベノニウム(マイテラーゼ)が比較的よく使われています。過量にならぬように注意が必要です。副作用の下痢、腹痛、腹鳴などのムスカリン作用は、硫酸アトロピンなどで抑制できると考えられます。

この間に悪化しない、または少数だが軽快する例があります。これに該当しない例ではステロイド治療を行います。初期増悪はまれだが漸増したほうが必要量を見極めやすいです。ステロイド薬無効例や重症例では胸摘を考慮します。

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