読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
73歳の夫は脳梗塞を発症し、病院に約3週間入院して治療を受けました。幸い、手や脚など体にまひが残ることはありませんでしたが、狭くなった左の視野がなかなか元のように戻りません。いずれ回復するのでしょうか。(71歳女性)

この相談に対し、中山クリニック院長である中山博文先生は以下のようにお答えになっています。
どちらの眼で見ても、視野の右あるいは左半分が見えない状態を「同名半盲」と呼んでいます。欠けている視野と反対側の脳の視覚をつかさどるところ(大脳皮質視覚野、視放線など)が、脳梗塞や脳出血などで障害されると、この症状が生じます。例えば、右後頭葉の視覚野に脳梗塞が起こると、左同名半盲が起こり、右眼も左眼も左側半分の視野が欠けます。

同名半盲は、急性期の脳卒中患者の約2割に認められますが、発症後ある程度回復し、主な回復は最初の1か月間ぐらいに生じます。

回復しないで視野欠損が残ると、日常生活に支障を生じます。そこで、欠けている視野を代償するように、うまく眼を動かして、見える側の視野の中に見たいものをもってくるようにリハビリテーションを行います。また、プリズム眼鏡を用いて、欠損していない側の視野を担当する網膜の部分に、欠損している視野の像を投影することによって見えるようにする方法もあります。

最近は、視野の欠けている部分と健常な部分の境界の領域に、何度も視覚刺激を入れることによって、視野の拡大を促すリハビリテーションも、一部の医療機関で行われています。


脳梗塞とは


脳梗塞とは、脳動脈閉塞などによる虚血により、脳組織が不可逆的な変化(壊死)を起こした状態を指します。

脳梗塞の発症率は10万人に対して100〜150人、死亡率は10万人に対して約70人であり、救命率もさることながら、患者さんの生活にも大きな影響を与えるため、重要な疾患です。また、脳梗塞は脳卒中全体の約60%を占め、最も頻度の高い病型です。年齢が高くなるほど、脳梗塞の占める比率は上昇します。

脳は虚血に最も弱い臓器の1つであり、血流に富んだ組織(約50ml/100g脳/分)です。脳代謝の面からみると、代謝が50%以下になると脳神経機能が障害され、15%以下になると梗塞に陥ってしまうと考えられています。

脳梗塞は臨床的に、以下の4種類に分類されます。
1)アテローム血栓性脳梗塞
・動脈硬化性の病変(アテローム)が大きくなり、その部分に血栓を形成し動脈閉塞を来す場合
・動脈硬化性病変部分で形成された血栓やアテロームの一部が、剥離してその動脈の末梢部分を閉塞する場合
・血圧低下などを起こした際に、その動脈硬化部分より遠位部の血流障害を来す場合
などに分けられる。
2)心原性脳塞栓
心疾患において心腔内に形成された血栓が脳動脈に達し、脳動脈の急性の閉塞を来すもの
3)ラクナ梗塞
脳深部の穿通枝動脈の閉塞によって生じるもので、一般に脳細小動脈硬化が原因と考えられている。
4)そのほか

こうした梗塞によって、壊死した領域の巣症状(その領域の脳機能が失われたことによる症状)で発症するため症例によって多彩な症状を示します。代表的な症状としては、麻痺(運動障害)、感覚障害、失調(小脳または脳幹の梗塞で出現し、巧緻運動や歩行、発話、平衡感覚の障害が出現)、意識障害(脳幹の覚醒系が障害や広汎な大脳障害で出現)がおこることもあります。

神経症状としては、片麻痺、半側感覚障害が多くみられます。神経症状は障害される部位、閉塞血管によって以下のように異なります。
前大脳動脈領域の梗塞では、下肘に強い片麻痺(感覚障害を伴うこともある)を示すことが多いです。時に筋固縮、バランス障害(失立、失歩)、記銘・記憶障害、性格の変化などが起こりえます。

中大脳動脈領域の梗塞では、顔面を含む片麻痺を示すことが多いです。半側(麻痺と同側)の感覚障害を伴うことと伴わないことがあります。

巣症状・皮質症状としては、優位半球障害ならば、言いたい言葉が出ない、他人の話が理解できないなどの失語症、失行症(道具を使った簡単な動作ができない)、左右失認、手指失認、計算ができないなどが起こりえます。劣位半球障害では、左にあるものを無視する(半側空間無視)、病態失認(自らの麻痺の存在を認めない)、着衣失行などが起こりえます。これらの巣症状は、病変の部位、広がりによって左右されます。

後大脳動脈領域の梗塞では、起始部閉塞では皮質枝領域の他に、視床が障害されるので反対側の感覚障害をきたします。特に、深部感覚が高度に障害されやすく、運動失調も伴いやすいです。皮質枝領域の梗塞では、同名半盲(両眼とも病巣と反対側の視野の欠損)が起こりやすいです。その他、記銘・記憶の障害、優位半球の梗塞では失読、視覚失認を認めることもあります。

状態が安定し、座位耐久性が向上した時点で訓練室での言語治療を開始します。障害状況に応じ、発語訓練や聴覚的言語把持力の強化訓練、呼称訓練、文字と絵の対応訓練、復唱訓練、読解訓練、書字訓練、代償手段(ジェスチャーなど)の利用訓練といったことを行います。

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