読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
昨年9月、狭心症で「薬剤溶出性ステント」を入れ、血液を固まりにくくする抗血小板薬を服用しています。今度、胃の内視鏡検査と脳のMRI(磁気共鳴画像)検査を受けようと思っていますが、検査を受けても大丈夫でしょうか。(76歳男性)

この相談に対し、帝京大病院循環器センター長である一色高明先生は以下のようにお答えになっています。
狭心症は、心筋(心臓の筋肉)に酸素や栄養を送る冠動脈が動脈硬化を起こし狭くなる病気です。ステント(金網状の筒)は、血管の狭くなった部分に挿入して内側から広げるための医療器具です。

ただ、ステント挿入後、血管が再び狭くなる「再狭さく」が起きることがあります。それを防ぐ薬をステント表面に塗ったのが薬剤溶出性ステントです。

このステントは血管の内側に血の塊(血栓)ができやすく、それを防ぐために抗血小板薬を一定期間、飲み続ける必要があります。不用意に薬を止めると、血栓ができ、心筋梗塞を起こすこともあります。

一方、胃の内視鏡検査では、粘膜組織を採取する「生検」を行うことがあります。抗血小板薬を内服したままだと、生検後に出血が止まりにくくなることがあり、検査前の約1週間は、薬をやめる方がいいとされています。

経皮的冠動脈形成術(PTCA:percutaneous transluminal coronary angioplasty)とは、心臓を栄養する血管である冠動脈の閉塞した箇所にカテーテルを用いて、バルーン(風船)を拡張して狭くなった冠動脈を拡げる手術です。

PTCAは約3分の1の割合で、再狭窄が数か月後に起こるのが欠点の1つとして挙げられていましたが、最近ではステントと呼ばれる小さなメッシュ状の金属チューブを動脈壁に留置することが行われています。

ステントを留置することにより、再狭窄を少なくすることができると考えられます。ステントによって、再狭窄率は15%前後にまで低減することができたと言われています。急性閉塞や再狭窄を抑制する目的で、円筒状の金属ステントを留置する手技が開発され、現在では冠動脈ステント留置術がPCIの主流となっています。

特に、2004年夏から日本に導入された薬剤溶出性ステント(drug-eluting stent:DES)は、新生内膜増殖を抑制する薬剤をステント表面にコーティングしたステントであり、再狭窄率がきわめて低いため頻用されています。

ただ、異物であるステントによって血栓(血液の塊)が出来やすくなるということもあります。それを防ぐ抗血小板薬が必要になり、医師の許可なく服薬をやめるのは危険です。

では、どうしたら良いのかといいますと、一色先生は以下のようにお答えになっています。
質問者は、ステントによる治療を受けて半年しかたっておらず、薬をやめると血栓ができる危険が少なくありません。

そこで、今回は薬を中断せずに内視鏡検査を受けることをお勧めします。できれば生検はあと半年ほど待ちましょう。血栓ができにくくなってから行う方が安全です。

なお、抗血小板薬の服薬を中止しても大丈夫かどうかは、必ず、事前に主治医に相談してください。

脳のMRI検査は、ステントの挿入直後でなければ、特に問題ありません。

循環器内科の先生とよくご相談されたほうが良いと思いますが、生検などが必要であれば、もう少し待たれた方が良さそうです。

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