読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
37歳の長男が今年、急性膵炎で2度入院しました。主治医には原因が不明と言われました。今後、どのような生活を心がけるとよいのでしょうか。(62歳女性)

この相談に対し、九州大病院肝臓・膵臓・胆道内科准教授である伊藤鉄英先生は以下のようにお答えになっています。
膵臓は、食べ物を消化する膵液を作る臓器ですが、正常なら、膵臓そのものが膵液で溶かされることはありません。ところが、様々な原因で膵臓に炎症が起きて膵液の流れが悪くなると、サラサラだった膵液がドロドロになります。すると、膵液の消化力が膵臓の中で異常に強まり、膵臓を溶かしてしまいます。これが急性膵炎です。

症状は腹痛が最も多く、腹痛で受診した人の約5%が最終的に急性膵炎と診断されています。次いで吐き気や嘔吐です。症状は激しく何時間も続くこともしばしばで、嘔吐しても腹痛が治まらないのが特徴です。

主な原因はアルコールの取りすぎと胆石です。そのほか、高脂血症、膵液が流れる管(膵管)が狭くなったり、おかしな方向に曲がったりなどの異常、服薬の影響、腹部の強打などもあります。ストレスも急性膵炎と強く関連していることが最近わかってきました。

急性膵炎とは、膵内で病的に活性化された膵酵素が膵内部と周囲組織を自己消化する急性病変です。軽症、(中等症)、重症に分けられます。軽症では膵浮腫程度で改善しますが、壊死が膵ならびに膵周囲に広範に生じると重症化してしまいます。

原因としては、アルコール性が約40%、胆石性が約25%、特定の原因が認められない特発性が約20%となっています。日本の急性膵炎受療患者数は年間約35,300人と推定され、重症例が約15%を占めています。

炎症が膵局所にとどまらず、腹腔内に広く進展すると、活性化膵酵素や各種炎症性メディエーターが血液やリンパを介して膵から離れた重要臓器におよんでしまいます。具体的には、膵内のトリプシンが活性化され、さらにトリプシン自身や他のエラスターゼ、リパーゼ、キニン、カリクレインなどを活性化し、膵の自己消化に至ると考えられます。

結果、発症早期に循環不全、腎不全、呼吸不全などの多臓器障害(multiple organ failure:MOF)を合併しやすく、発症2週以降には敗血症などの重症感染症の合併頻度が高まってしまいます。こうなってしまうと、致命率は8.9%と予後が悪いと考えられます。

症状としては、上腹部の激痛を認め、しばしば背部に放散します。前屈姿勢で軽減する傾向があるため、側臥位でエビのように丸まっていることが多いです。その他、発熱、悪心・嘔吐を認めることがあります。

重症例ではショック、呼吸困難、乏尿・無尿、精神症状、重症感染症、出血傾向を認めることがあります。急性期以後も仮性嚢胞の膿瘍化、嚢胞内出血に起因する種々の症状を認めることがあります。

診断としては、
1)上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある。
2)血中、尿中アミラーゼや血中リパーゼが上昇する。
3)腹部超音波(US)や腹部X線CTで膵の腫大や実質の不均一、血流障害、膵周囲の滲出液貯留や脂肪壊死を中心とする炎症の進展が認められる。
これら1)〜3)のうち2項目以上を満たし、他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断します。

検査としては、膵酵素の測定を含む血液一般検査を行い、胸腹部単純X線、腹部長音波検査、CTなどの画像検査によって速やかに鑑別診断を行います。急性膵炎例では胆石の有無、胆管拡張、膵腫瘤や石灰化の有無、高脂血症など、成因や合併症の有無を調べる必要もあります。

また、軽・中等症と重症では治療方針が大きく異なるため、入院24時間以内に「急性膵炎の重症度判定基準と重症度スコア」(厚生労働省特定疾患難治性膵疾患調査研究班)で判別することも重要です。

治療としては、以下のようなものがあります。
治療は原因の除去、つまりアルコールなら断酒、胆石なら胆石を除くことが大切です。治った後でも再発防止のため、酒はほどほどにし、肉類など脂肪分の多い物や辛い物を食べ過ぎないようにしましょう。過度のストレスも禁物です。

質問のケースでは、急性膵炎の原因が不明とのことですが、3度目の発症を防ぐためにも原因を突き止めることが重要です。内視鏡や磁気共鳴画像(MRI)を用いた検査で、胆石や膵管の異常がないか、調べることをお勧めします。膵臓専門医にご相談下さい。

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