コンサートで大音響の中にいると、耳に大きな負担がかかり、耳鳴りがしたり聞こえにくくなったりすることがある。ヘッドホンで長時間、大音量の音楽を聴いても、聴覚を損ないかねない。携帯音楽プレーヤーの普及で難聴の広がりを心配する声もある。

今年7月、東京都内の公務員男性(25)は、笠井耳鼻咽喉科クリニック(東京・目黒区)を受診し、訴えた。「昨夜コンサートに行ってから、耳鳴りがするようになりました。耳が塞がるような感じもあります」

聴力検査した結果、周波数4000ヘルツの高音域の音が聞こえにくくなっていた。正常なら25デシベルくらいの音量でも聞こえるはずが、50デシベル以上でないと聞こえない。急性感音難聴(音響外傷)と診断された。

音が聞こえる仕組みは、耳の奥の「蝸牛」という渦巻き状の器官にある有毛細胞が、先端に生えた毛の振動で音を感知すると、その情報を脳に伝えるものだ。感音難聴は、大きな音で有毛細胞に障害が起きることなどによって発症する。「ロック難聴」「ヘッドホン難聴」などとも呼ばれる。

この男性を診察した院長の笠井創さん(60)によると、通常、様子を見て自然に治るのを待つことも多いが、検査の結果、高音域の聴力レベルがかなり落ちていたため、有毛細胞を保護する目的でステロイドやビタミン剤を処方。薬の効果かどうかははっきりしないものの、2日後には正常に戻っていた。

同クリニックには、この1年余の間に、感音難聴と見られる10〜20代の若者が計11人訪れた。ロックコンサートや自分のバンドでの演奏などが原因と見られた。笠井さんは「症状に早く気づけばいいが、ヘッドホンで大音量の音楽を聴くのが習慣化しているような場合は、自覚がないまま悪化する恐れがある」と話す。

難聴の症状が出ても、一時的なら静かな場所で耳を休ませれば多くは自然に治ることが期待できるが、慢性的な症状になると深刻だ。有毛細胞はいったん破壊されると修復力がなく、機能が回復しないためだ。まず何より大事なのは予防ということになる。

コンサートでは、スピーカーのそばを避けたり、時々休憩したり、自分なりの工夫も大切だ。ヘッドホンやイヤホンは、使い方に気をつければ、安全に使うことができる。適度な音量は、外の音が入りやすいオープンエア型なら、静かな場所でヘッドホンをしていても周囲の音が聞こえる程度、遮音性の高いクローズド型なら、片側を耳から外し周囲の音と同程度の音量に設定するのが目安。長時間聴き続けないようにしよう。

電車の中でヘッドホンを使う時は、周りの騒音があるのでつい音量を上げがちだが、適正な音量を把握し、上げ過ぎないようにしたほうがいい。一般に、耳の健康には90デシベル以下が目安とされている。

慶応大耳鼻咽喉科教授の小川郁さん(56)は「周囲に音漏れするほど大きな音量で聴くことは、マナーの問題だけでなく、自分の耳の機能を損なうことになる。若い時に耳に負荷をかけていると、年をとってから難聴になりやすいという専門家の声もあるので注意してほしい」と呼びかけている。
([医療解説]ヘッドホン 難聴… 大音量 耳の細胞に障害)

音響外傷とは、強大な音を聞くことによって聴覚が障害されることをいいます。音のレベルが高いほど短時間の聴取で発症するといわれています。障害部位は内耳有毛細胞とされています。強大音を短時間聞くことで発症するものを急性音響外傷といい、比較的大きい音を長期間聞くことで発症するものを慢性音響外傷といいます。
 
急性音響外傷は銃器類や花火などの爆発音が原因になります。近年、若年者に多い急性音響外傷に、ディスコミュージックやロックミュージックなどの大きな音楽を数時間聞くことで発症するディスコ難聴やロック難聴があります。

慢性音響外傷には、騒音の強い職場に長時間勤務することによる騒音性難聴(職業性難聴)があります。騒音レベルが高いほど、就業期間が長いほど、難聴の程度が強くなります。職業性難聴を防ぐための許容基準が定められています。近年、若年者に多い慢性音響外傷に、ヘッドホンステレオ(ウォークマンなど)で音楽を聞くことによるヘッドホン難聴があります。

80〜90dB以上の騒音に長期間曝露されると、蝸牛コルチ器、特に外有毛細胞に障害が起こってきます。音は、外耳から入り鼓膜を振動させ、中耳の耳小骨を介して卵円窓から内耳に伝播します。

振動は内耳の蝸牛内に満たされたリンパ液を介して基底膜上のコルチ器官に伝わり、有毛細胞によって感知されます。そこで発生した神経インパルスは中枢へ送られ、音を認識します。この過程の中で、内耳の異常が起こっていることで、聴覚異常がみられるわけです。

さらに、以下のようなことが言えます。
検査としては、オージオグラムなどが用いられ、初期の聴覚機能の変化は4kHzを中心とした音域に現れやすく、周波数4kHz付近にみられる聴力損失が特徴的です。これをC5ディップと呼び、早期変化を診る上で有用な所見です。

症状としては、初期の頃は音でいらいらする、うるさい、耳鳴りなどがみられます。次第に慣れてくると、数年を経て聞こえにくさ、耳鳴りが目立ってきます。他に、慣れずに増強する例もあります。

聴覚以外の影響は、自律神経系や内分泌系を介する非特異的影響が指摘されています。循環器疾患や妊娠・出産の異常に関連するとの指摘もあります。

騒音性難聴は有効な治療法が確立されておらず、改善しないことが知られています。急性の音響外傷や騒音性突発難聴は改善が期待でき、安静やステロイド投与、ビタミンなどによる突発性難聴に準じた治療を行います。

治療以上に、予防が重要です。大音響で音楽を聴く方などは、ご注意ください。