まるで映画『ベンジャミン・バトン』の主人公のような人生を送る、ブラジル人女性が話題となっている。

彼女は1981年の5月に生まれたのだが、生まれついてわずらった病のために、生後9カ月のまま今まで30年間の人生を歩んできた。

専門医の話では、治療が早ければ病の完治もできたかもしれないというのだが、彼女の家庭は貧しく思うように治療を受けることが困難であった。

最近になって地元の大学が、彼女に無償で医療を提供することを申し出たそうだ。

彼女の名前は、マリア・アウデテ・ド・ナシメントさん。1981年5月7日生まれ、今年30歳だ。ブラジル東部のセアラー州の田舎町に、家族と共に住んでいる。家庭はとても貧しく、家族は身を寄せ合うようにして暮らしている。彼女は30歳ではあるが、生まれついて「甲状腺ホルモン欠乏症」という病をわずらっていたため、生後9カ月のまま成長が止まってしまっている。

容姿は赤ちゃんのままで、しゃべることもままならない。彼女の身の回りの世話は父親と、彼の後妻のドラさんが行っている。彼女の実の母親が13年前に亡くなって後、ドラさんは自らの子どもとしてマリアさんの世話を献身的に行っているのである。ドラさんは彼女との出会いを「神様が私に授けてくれたギフト」と語っている。家は貧しく生活もままならないのだが、家庭に愛情が不足することはない。

専門医によれば早くから治療が行われれば、順調な成長も望めたと話している。しかし今となっては過去の話、もしも当時症状について詳細にわかっていたとしても、しっかりとした治療を受けるお金がなかったのだ。

2010年にマリアさんのことが地元テレビ局に紹介されると、とある大学が無償で医療を提供することを申し出た。以来、定期的に治療を受けているそうだ。そしてようやく、2〜3の言葉を口に出来るようになったとのことである。しかしながら、両親は少なからず彼女が今のままでいることを望んでいるそうだ。

先天性甲状腺機能低下症とは


甲状腺機能低下症とは、甲状腺による甲状腺ホルモンの合成、分泌が低下した病態を指します。原因はさまざまであり、1) 原発性 2) 二次性 3) 三次性(または視床下部)に分けられます。

1) 原発性では、甲状腺自体に問題があるもので、2) 二次性とは、下垂体TSH(甲状腺刺激ホルモン)分泌細胞の機能低下によるもので、3) 三次性は視床下部TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)分泌の低下によるもので、血中TSHは低値ないし正常値を示します。

先天性甲状腺機能低下症は、胎児期より甲状腺欠損、低形成、合成障害などによる甲状腺ホルモン不足によって起こる病態です。

病因的に2つに大別できます。一つは、甲状腺自体に病因がある場合であり、もう一つは、下垂体機能前葉ホルモンの1つであるTSH欠乏症により、甲状腺機能低下症が生じる場合です。TSH欠乏症の大多数は下垂体機能低下症の一欠乏症として生じます。そのほか、先天的に甲状腺機能低下症をきたしえますが、一過性の経過をとり永続的な治療を要さない、まれな原因として、ヨード過剰による場合および抗甲状腺薬が母親に投与されている場合があります。これらは病因的には甲状腺自体の一過性機能低下です。

なお、国内では生後数日のスクリーニングにおいてTSH測定(自治体によっては遊離型T4も同時に測定)が行われ、治療開始時期の遅れた重症甲状腺機能低下症に起きる不可逆的成長・発達障害を未然に防ぐ試みがなされています。

新生児スクリーニングが開始される前は、知能障害、低身長などで発見される症例もありましたが、昭和57年以降はほとんどの症例が生後1ヶ月以内にスクリーニングで発見されており、症状はほとんどないか、あっても遷延黄疸、臍ヘルニア、泣き声がやや弱い程度です。

先天性甲状腺機能低下症の治療


治療としては、以下のようなものがあります。
不足しているだけの甲状腺ホルモンを補充投与し、血清甲状腺ホルモン値および成長発達を正常に保つことが治療方針でし。

診断がつけば、合成L-チロキシン(LT4、チラーヂンS 錠または散剤)を先天性甲状腺機能低下症治療ガイドラインにそって投与します。日本の最新(1998年)のガイドラインでは、出生早期より十分量のLT4(10μg/kg/日、諸外国では10−15μg/kg/日を推奨している)を投与し、その後は血清TSH値を正常範囲に、またFT4値を高めの正常範囲に維持していきます。

このまま治療を継続し、患者が錠剤を服用できかつ画像検査を1人で動かずに受けられる年齢(4歳から学童まで個人差が大きい)になったら病型診断を行い、その後の治療方針を決めます。治療開始が遅延すると不可逆性の精神発達障害が生ずることがあります。

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