読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
出産後、くしゃみで尿が漏れるようになりました。尿意を感じると、我慢できずに漏らすこともあり、介護用の尿取りパッドを使っています。尿の回数も増え、尿意も強いです。病気なのでしょうか。(39歳女性)

この相談に対して、亀田メディカルセンター・ウロギネコロジーセンター長である野村昌良先生は次のようにお答えになっています。
尿失禁は、くしゃみなどで腹圧がかかる時に尿がもれる「腹圧性尿失禁」と、尿意を感じると我慢ができなくて尿もれがする「切迫性尿失禁」に分けられます。この方の場合は、両方が混在した混合性尿失禁ということになります。

重いものを持つなどの重労働や加齢などで起きることもありますが、多い原因は出産です。骨盤の底にあって臓器などを支える「骨盤底筋」が出産の時に大きく引き伸ばされて緩んでしまうために起こります。出産による尿漏れは腹圧性尿失禁が多く、経産婦の3〜4人に1人が経験します。

腹圧性尿失禁とは、咳、くしゃみ、笑った時、重いものをもった時など、急に腹圧が加わった時、不随意に尿が漏れる状態を指します。簡単に言ってしまえば、自分の意思に反して、お腹に力を入れた時などの腹圧で尿が漏れ出してしまう病気です。

多産婦や高齢女性にみられることが多く、40代〜50代の女性に特に多いといわれています(男性では稀)。そもそも、膀胱を始め子宮・直腸などの臓器は、「骨盤底筋」という腹部の一番下にある筋肉や靱帯によって支えられています。女性の骨盤底筋が、お産(経腟分娩)や内分泌環境の変化によって脆弱化し、弛緩することが原因であると考えられています。

本来ならば、膀胱はしっかり支えられ、尿道も締め付けて尿が漏れることはありません。弛緩が進行すると、膀胱や尿道が不安定に動くようになり、ささいな圧力がお腹にかかっただけで尿が漏れるようになってしまいます。

腹圧性尿失禁では、膀胱や尿道を固定することが出来ずに下がってしまい、大きく変形してしまいます。尿道を締め付ける力もしっかり伝わらず、尿道を閉じることが出来ずに漏れ出てしまう、というわけです。さらにこの状態を放っておくと、膣口から子宮が飛び出す「性器脱」と呼ばれる状態になってしまいます。

尿失禁の鑑別を進める上で、一般的に尿検査や膀胱の超音波検査などがありますが、特に腹圧性尿失禁では、パッドテストなどが行われます。

パッドテストとは、腹圧性尿失禁に対して行われる失禁定量テストです。患者さんには、重量を測定したパッド(生理用ナプキン)を装着した後、膀胱に腹圧がかかるような運動(階段の昇降,ジャンプ,速足歩行,咳)を約1時間やってもらいます。

終了後に再びパッド重量を測定します。運動負荷前後のパッド重量の差が、失禁量となります。この失禁量によって腹圧性尿失禁の重症度が判定され、治療方針が決定されます。2.0g以下が正常であり、2.1〜5.0gで軽症、5.1〜10gで中等症、10g以上で重症となります。

尿失禁の治療としては、以下のようなものがあります。
尿もれがあると、早め早めにトイレに行く習慣を身につける人が多くいます。尿をためる袋である膀胱(ぼうこう)は筋肉でできており、早めにトイレに行って、筋肉が伸びない状態が続くと膀胱が縮み、切迫性尿失禁が出てくることがあります。

腹圧性尿失禁の原因は骨盤底筋の緩みですので、治療ではまず、骨盤底筋を鍛える骨盤底筋体操が行われます。切迫性尿失禁の治療は、尿をある程度我慢する膀胱訓練が効果的です。

これらを行っても効果がない場合は、専門医を受診しましょう。泌尿器科(ウロ)と婦人科(ギネ)を同時に診察できる「ウロギネセンター」や「女性泌尿器外来」を設けている病院がお勧めです。尿もれのタイプや程度により、薬から尿道を支える筋肉を補強する手術まで様々な治療法があります。専門医に相談し、希望に沿った治療法を選択してください。

軽症から中等症までは保存的療法が適応となり、これには骨盤低筋強化体操、電気刺激療法およびクレンブテロール(β2受容体刺激薬)の内服などがあります。重症例(失禁量が10g以上)には、一般に手術療法が選択されます。

手術は、経腟的膀胱頸部吊り上げ術および経腟的スリング術が主流となっています。また、高齢者や括約筋不全をもつ症例には、コラーゲン注入療法が行われることもあります。

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