■冬は毎年気分がどんより「冬うつ」
冬になると憂うつになる「冬うつ」。これは、季節性感情障害の通称。典型的なうつといえば、「不眠」、「食欲がない」というのが一般的なイメージだが、「冬うつ」は食べすぎ、寝すぎという症状が多く、うつとは自覚しにくい。
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冬うつは、冬にはほとんど太陽が出ない北欧などに患者が多い、季節性のある「うつ」。日本では柿の実が赤くなるころから増え始めるといわれ、春になると症状が改善する人が多い。10〜11月ごろから徐々に元気がなくなり始め、眠くて、だるくて、何もやる気にならなくなるようなら、冬うつを疑ってみるべき。

パークサイド日比谷クリニックの立川秀樹院長は「冬うつは20代の後半以降の女性に多い」という。
「過眠・過食、体が重い、というのが最も多い症状です。食べ物に“癒やし”を求める傾向があり、菓子パンのような甘いものや炭水化物を食べたくなります。また、寝てばかりでも食べるので、 “うつ太り”をする人もいます」(立川院長)。

うつ病の患者数は日本人の約8%。男女別にみると女性の方が多い。最も多いのは60〜70代だが、働き盛り、出産・子育て世代でストレスが大きい30〜40代にも多い。この冬うつの原因を、昭和大学医学部の平島奈津子准教授は「日照時間が短くなることが引き金となって、セロトニンなどの脳内の神経伝達物質が減ることが一因です」と解説する。

蓄積したストレスも原因と考えられている。また、遺伝などの家族性も指摘されている。そして、日照時間が短い地域などの環境的なものも要因として挙げられているが、これらの要素が複合的に組み合わさって発症に至るケースが多いと考えられている。

■ずれてしまった体内リズムをリセットする
冬うつを始め、うつ病の原因とされているのが、セロトニン不足。そのため、脳内のセロトニン量を増やす薬、SSRIなどが処方される。また、セロトニンと関係が深い、メラトニンの観点からの治療薬も処方されている。「冬うつの患者は過眠などの睡眠障害を併発しやすい。原因はメラトニン分泌の異常が示唆されている。2010年に登場したロゼレム(ラメルテオン)というメラトニン受容体作動薬は新しい作用機序を持つ不眠症用の治療薬だが、冬うつの睡眠障害にも効果がある」(立川院長)。

このほかに高照度光療法も有効だ。これは、朝の太陽と同じ程度の強い光を、毎朝2時間以上浴びる治療法。「薬より早く改善効果が出ることもあり、医療器具も市販されています」(立川院長)。光療法や薬の力を借りながら、「早寝早起き」や「過食をさける」といった、生活指導を医師から受けるのが一般的だ。

〜ほかにもある、こんなうつ〜
・双極性障害
昔は「躁うつ病」と呼ばれていたように、気分が高揚する時期と沈む時期が交互に来る。軽い躁状態が「普通」と思われると、うつ病と誤診されやすい。

・産後うつ
産後3〜6カ月以内に、10〜20%の人がなる。エストロゲンが欠乏することでセロトニンの働きが低下する。育児のストレスや睡眠不足も誘因に。

・燃え尽き症候群
仕事の繁忙期の後などに精根尽き果ててしまった状態。「報われない」という気持ちが引き金になることも。悪化してうつ病になることもある。

・PMDD(月経前不快気分障害)
排卵期から月経前まで、プロゲステロン(黄体ホルモン)が増えるのが原因。イライラしたり、キレやすくなったり、落ち込みやすくなったりする。
(眠くてたまらない、甘いものを食べ過ぎる 「冬うつ」に注意)

冬季うつ病とは


季節性にみられる情動疾患を季節性感情障害(seasonal affective disorder;SAD)といいます。季節性感情障害ともいい、毎年ほぼ同じ時期に起こり、同じ時期に自然寛解します。

頻度の高いタイプは冬季うつ病で、午前中の過眠、意欲低下、食欲亢進、体重増加、炭水化物の嗜好を呈し、春季に全ての症状が寛解するといった特徴があります。

簡単にいってしまえば、毎年のように秋・冬にうつ状態を繰り返し、春になると自然に寛解するうつ病です。冬期の日照不足によるとされ、高緯度地域での発症率が高いといわれています。

一般的なうつ病の亜型とも言われることもあります。一般的なうつ病では、気分障害の一種であり、抑うつ気分や不安・焦燥、精神活動の低下、食欲低下、不眠などを特徴とする精神疾患です。これらの症状からしても、冬季うつ病とはかなり異なるのがおわかりになるかと思われます。

さらに、うつ病の診断は、DSM-IVの診断基準などを参考にして行われます。これには、2つの主要症状が基本となります。それは「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」です。この2つの主要症状のいずれかが、うつ病を診断するために必須の症状であるとされています。

「抑うつ気分」とは、気分の落ち込みや、何をしても晴れない嫌な気分や、空虚感・悲しさなどです。「興味・喜びの喪失」とは、以前まで楽しめていたことにも楽しみを見いだせず、感情が麻痺した状態です。

ただ、最近の傾向としては、身体症状を前景とする軽症うつ病(仮面うつ病)が増加しているそうです。うつ病の8割が、一般診療科を受診するという報告もあります。身体に多彩な症状がみられ、症状の部位によって、多くの診療機関を受診(いわゆるドクター・ショッピング)しています。

よくある症状は、「睡眠障害」「全身倦怠・疲労」「全身のいろいろな部位の疼痛」の3つです。うつ病と診断された患者が初診時にどのような身体症状を訴えていたかを調べた結果(新臨床内科学第8版)、消化器症状が63%と最も多く、次に循環器症状20%、呼吸器症状14%、泌尿・生殖器症状6%、運動感覚器症状4%といわれています。

中でも、うつ病と消化器症状はきわめて関連が深いそうです。うつ病に伴う消化器症状として食欲不振78%、体重減少56%、便通異常44%、ガス症状33%、悪心・嘔吐29%、咽喉頭部・食道の異常感26%、腹痛23%、胃部不快感20%、口内異常感14%、胸やけ・げっぷ10%などが認められています。

こうした症状が、実はうつ病によるものがあり、内科などから精神科へ紹介受診となることもあります。

冬季うつ病の治療


治療としては、以下のようなものがあります。
高照度光療法が有効であるといわれています。高照度光療法とは、2,500lux(ルクス)を超える強い光によって、ヒトでも松果体からのメラトニンの分泌が抑制されることが明らかにされて、高照度の光が生体リズムや行動に影響を及ぼすことが想定され、開発された治療法です。

季節によってうつ病が発症・悪化する季節性感情障害(SAD)のうち、冬季うつ病の患者に対し、眼前で2,500lux以上の人工照射光を浴びせ、著しい改善がみられたことに始まっています。すなわち、高照度光療法は冬季うつ病がきっかけで開発されました。

また、今日ではSADのみでなく、概日リズム睡眠障害や月経前緊張症(PMS)などにも応用されています。

毎年「冬のシーズンになると落ち込みやすくてツラい…」といった症状が心当たりの方は、一度、精神科などでご相談されてはいかがでしょうか。