yomiDrの医療相談室で「胃がん治療後のCT検査による被ばくが心配」という相談が寄せられていました。
2011年に胃内視鏡検査で早期がんが見つかったが、ESDで治療しました。その後、経過観察のため、CT(コンピューター断層撮影)検査を6か月おきに2回受けました。結果はいずれも異常なしでした。

今後も6か月おきに検査を予定しています。検査の必要性は分かりますが、反面、CT検査による放射線の被ばくリスクが気になります。私が検査を受けたのは、「64列マルチスライスCT」と腹部の「エックス線造影検査」です。がんの発生など健康への影響はあるのでしょうか。(79歳男性)

この相談に対して、東京大学医学部放射線科教授である大友邦先生は以下のようにお答えになっています。
臨床情報が足りないため、以下、一般論として回答させて頂きます。

医療被ばくの場合には被ばくというリスクが伴っても、その検査によって病気を発見できれば、被ばくした本人が利益を得ることになります。主治医は、今回のCT検査は、患者さんにとって害よりも利益を多く与えるものであると判断したのでしょう。

確かに年2回の体部CT検査で発がんが起きる可能性はわずかにあります。しかし、1個のがん細胞が、1cm程度に大きくなるまでには10年以上かかります。つまり、万一、CT検査が原因でがんが発生した場合でも、治療が必要になるまでには10年という単位でかかります。79歳の個人レベルではほとんど問題ないと言えるでしょう。

患者さん自身の検査計画に関して、疑問や心配な点を主治医に質問し、納得するまで相談することが大事だと思います。なお、頂いた情報からだけでは断言できませんが、79歳という患者さんのご年齢と早期胃癌という病変の進行度を考えますと、CT検査の頻度を今よりも落として、内視鏡検査などの他の検査法で再発の有無のチェックをするという方針をとれる可能性もあります。主治医とご相談下さい。

放射線防護の観点から、被曝の形態を被曝を受ける立場によって、1) 職業被曝、2) 医療被曝、3) 公衆被曝に分類されます。上記の場合は医療被曝に当たります。

医療被曝とは、放射線を発生する医療機器や放射性核種を含んだ医薬品を用い、医学的診断や治療を受ける際の被曝をいう。国際放射線防護委員会(ICRP)では患者の被曝だけでなく、研究のための被検者、患者さんの介護者や保定者の被曝も含めます。
日本国民1人当りの環境放射線被曝量は1年間に約3.8mSvと算定されていますが、そのうち医療被曝は約2.25mSvで、全体の60%を占めるといわれています。CT検査診断などの増加で、医療被曝量はさらに大きくなると予想されますが、患者さんの被曝による損害と便益を考慮すると、被曝を伴う医療が正当化され、防護が最適化されていれば、便益は損害を超えると考えられます。

CT検査で一度に8 mSV程度の被曝はあります(放射能と放射線)。しかしながら、どうしても胃癌の再発が懸念されると主治医が判断するのであれば、CTでのフォローアップが必要となります。ですが、半年に1度のCT検査が必要かどうかは、さまざまな考え方があると思われます。そこは患者さんとの相談となると思われます。どうしてもCTを撮りたくない、とお考えであるならば、やはり内視鏡での検査での代替などが必要と考えられます。