yomiDrの医療相談室に、「ピロリ菌 家族にうつるか」という相談が寄せられていました。
12年前にピロリ菌の除菌に成功しました。その後も内視鏡検査で毎年検査を受けており、異常はありませんが、過去に家族にうつしてしまったのではないかと心配しています。(71歳男性)

この相談に対して、自治医大消化器内科教授である菅野健太郎先生は以下のようにお答えになっています。
ピロリ菌の感染率は、若い世代ほど減少していることが知られており、親の世代の感染率と比較すると、約半分程度です。

ご質問者の年齢の70歳代の感染率が70%程度とすれば、一世代若い40歳代では35%程度、もう一世代若い10歳代では10%台となっています。このことは両親から子、祖父母から孫などのような家族間の感染は、実際にはそれほど起きていないことを意味します。

一方で、家族間でのピロリ菌の遺伝子型が一致している事例も報告されており、家族間の感染もある程度は起きていると思われます。ご心配ならば、ご家族で検査などを受け、陽性であれば除菌を行えば安心できるでしょう。


ピロリ菌とは


ピロリ菌ことヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)は、ヒトなどの胃に生息するらせん型の細菌です。1983年バリー・マーシャル(Barry J. Marshall)らが、自らの体で菌の存在を証明したことでも有名です。

ピロリ菌は幼児時に経口感染し、胃に数十年すみ続け、慢性胃炎を起こします。日本では40代以上の7割が感染しているといいます。日本の全人口の約50%が感染しているのではないかといわれ、年代が高い方が感染率も高いといわれています。そして、胃癌では最も重要な発がん因子であるとされています。

ヘリコバクター・ピロリの感染は、慢性胃炎、胃潰瘍や十二指腸潰瘍のみならず、胃癌やMALTリンパ腫などの発生につながることが報告されています。細菌の中でヒト悪性腫瘍の原因となりうることが明らかになっている唯一の病原体です。

ピロリ菌を見つける検査には大きく分けて内視鏡を使わない方法と、内視鏡を使う方法があります。内視鏡を使わない検査方法は、何より内視鏡検査を受けずに済む、簡単に検査が行えるという大きなメリットがあり、よく使われています。

内視鏡を用いない検査方法
1)尿素呼気試験法:診断薬を服用し、服用前後の呼気を集めて診断します。内視鏡を用いない検査では、最も精度の高い診断法です。簡単に行える方法で、感染診断前と除菌療法後4週以降の除菌判定検査に推奨されています。

2)抗体法:ヒトはピロリ菌に感染すると、抵抗力として菌に対する抗体をつくります。血液中や尿中などに存在するこの抗体の有無を調べる方法です。血液や尿などを用いて、その抗体を測定する方法です。

3)抗原法:糞便中のピロリ菌の抗原の有無を調べる方法です。

内視鏡検査では、胃炎や潰瘍などの病気があるかどうかを直接観察して調べますが、それと同時に、胃粘膜を少し採取しそれを使って検査する方法です。
 
内視鏡を用いる検査 
1)培養法:胃の粘膜を採取してすりつぶし、それをピロリ菌の発育環境下で5〜7日培養して判定します。

2)迅速ウレアーゼ法:ピロリ菌が持っているウレアーゼという、尿素を分解する酵素の活性を利用して調べる方法です。採取した粘膜を特殊な反応液に添加し、反応液の色の変化でピロリ菌の有無を判定します。

3)組織鏡検法:胃の粘膜の組織標本に特殊な染色をしてピロリ菌を顕微鏡で探す組織診断方法です。

治療法としては、以下の様なものがあります。
2月から、胃潰瘍などがなくても、ピロリ菌陽性の胃炎に対する除菌に保険がきくようになりました。除菌すれば、潰瘍になりにくくなるだけでなく、胃がんを予防できるのではないかと期待されています。

ご質問者が除菌された12年前は、潰瘍がある場合の保険治療が認められて間もない時期ですから、胃潰瘍か十二指腸潰瘍の病名で除菌が行われたのではないかと推測します。除菌しても、胃潰瘍のように胃の萎縮を伴っている場合は、除菌していない人と比べて胃がんの危険性は減りますが、ゼロにはなりません。

我々の診療現場でも、除菌成功後10年以上経過して、胃がんが見つかる患者さんがいます。既に実践されているように、除菌後の定期検査をお勧めします。

病院で行われている除菌治療は、抗生物質2剤と、一過性の胃酸過多による副作用を防止するためのプロトンポンプ阻害薬の併用が標準的です。

国内では、プロトンポンプ阻害薬(ランソプラゾールまたはオメプラゾールまたはラベプラゾール)+ クラリスロマイシン + アモキシシリンの3剤併用が健康保険の適用となっています(ただし保険適応は、胃潰瘍と十二指腸潰瘍がある場合)。

ですが、最近ではクラリスロマイシン耐性菌株が増えてきてしまっているそうです。そこで除菌できていなかったら、メトロニダゾールに変えて再除菌するようです。副作用は、軟便や下痢、薬剤性皮疹などであり一般に軽微であるとされています。

除菌判定は治療薬剤の内服終了後6〜8週の時点で行います。少なくとも培養法、鏡検法、尿素呼気試験の3種類の検査法を用い、すべての検査が陰性であれば陰性とし、その症例を除菌成功例とします。さらに診断精度を上げるため、治療中止後6ヶ月、12ヶ月の時点で除菌判定を追加して行うことが望ましいといわれています。

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