「仕事中はうつ状態だがプライベートでは元気」という症状に悩む20〜30代サラリーマンがここ数年増えている。これは非定型うつ(通称“新型うつ”)と呼ばれ、従来型のうつよりも軽度に分類されるが、“新型うつ”の増加は決して軽視できない社会問題だ。職場を襲う「新型うつ」

◆プライベートはやる気満々!? 理解を得づらい うつの最新型
「休みの日は元気で、趣味にはやる気満々だったり、過食・過眠気味になったりと、従来のうつとはまったく違う症状。投薬よりもカウンセリングが重要なことや、自分ではなく他人を責める傾向があることから、“単なるワガママ病なのでは?”と思われることも多いのが厄介です」
とは、NPO法人教育研究所所長の牟田武生氏。ひきこもり、ニートの自立支援を行う、若者のうつのエキスパートである同氏は“新型うつ”増加の原因をこう分析する。

「生まれたときから不況しか知らず、『頑張ればそのぶん報われる』という価値観がそもそもないのが今の20〜30代。『会社のため、世の中のために頑張って役に立ちたい=滅私奉公』よりも『頑張っても報われないなら、なるべく他者とかかわらず、楽をして生きたい=滅公奉私』という価値観で育たざるを得なかった時代背景が“新型うつ”を生んだ側面もある」

また、“新型うつ”は若者特有の症状ではないこともアラフォーにとっては注意が必要だ。
「“新型うつ”の症状が注目され始めて10年弱。当時アラサーだったサラリーマンも今やアラフォー。バブル崩壊後に就職したアラフォーは、『終身雇用制度の崩壊』『年功序列の崩壊』と、“頑張れば報われる”価値観からの転換を迫られた“新型うつ”のはしりの世代なんです」(牟田氏)

多くの有名企業の産業医として、サラリーマンのうつ病の症例を見てきた榛原藤夫氏(仮名)も「今のアラフォーは従来型うつと“新型うつ”の過渡期。どちらの症状の患者もいるため、結果的に最もうつの患者が多い世代」と言う。

20代の部下の新型うつを心配しながら、自身も“新型うつ”になってもおかしくない背景を抱えている……。「最近の若いヤツは」なんて言っていても、明日は我が身ということも有りうるのだ!
(「仕事中はうつ、プライベートは元気」新型うつの理解されづらい全貌)

新しいタイプのうつ(新型うつ)とは


1970年代頃から、以前のうつ病の病前性格(元々の性格)、発症、病態モデルでは説明できない症例が報告されるようになりました。

患者さんの多くは比較的若い世代で、

1) 必ずしも「真面目、几帳面、完全主義、他者配慮などの性格傾向」を示さない。
2) 申し訳ないという感覚に乏しい。
3) 時には他人を責める。
4) 抑うつ自体は軽い。
5) 好きなことをしている時は楽しめることもあるように見える。
6) 自分はうつ病だと認めたがる。
7) 社会復帰を嫌がる。

などの特徴があったそうです。

1977年頃になると、エリートサラリーマンの男性に特徴的に見られた抑制が主体の逃避的色彩の濃い抑うつ状態が、「逃避型うつ病(逃避型抑うつ)」として初めて報告され、その後、1991年には、比較的若いサラリーマンなどに典型的に見られる軽症の内因性うつ病の特徴について報告されています。

1991年の論文(松浪克文,山下喜弘 :社会変動とうつ病.社会精神医学,14;193-200,1991)では、従来のうつ病に見られる几帳面、完全主義、責任感の強さは患者の強迫性の表現であると考えられ、現代型ではこの強迫傾向は職場環境では発揮されず、趣味などの個性を発揮する領域で認められる、と報告されていました。

さらに、1995年には、若年者において不安焦燥感が強く、他者に対し依存と攻撃を示すうつ病群について報告され、「未熟型うつ病」と名づけられています。2005年には、「ディスチミア(気分変調)親和型うつ病」なるものについて報告されています。

これらの新しいタイプの"疾患"を果たしてうつ病と呼んでいいかは異論があるかもしれませんが、従来のうつ病モデルでは説明がつかない、"うつ病らしき疾患"の存在が提起されてきているのは確かなようです。

これら新しいタイプのうつ病は、時代や文化、価値観の変化によって従来の内因性うつ病の症状が変化したことと関連している、といった指摘もあります。すなわち、うつ病と一口に言っても、社会や環境の変化によって、症状の変化などがみられることが示唆されています。

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