蚊に刺されただけなのに、重い症状を引き起こすことがあるのを知っていますか? ここでは「蚊アレルギー」について説明したいと思います。

■実は知らない蚊のあれこれ
まずは普通あまり知られていない蚊の生態について、軽く解説しましょう。蚊は、昆虫でハエ目カ科に属します。オス・メスともに長い口吻を持ち、上唇で食物を吸収し、下面に唾液を送り込む管を持っています。蚊の主食は花のミツや草の汁などで、動物の血ではありません。血を吸うのはメスだけで、産卵期に吸血します。卵を発達させるために必要なタンパク質を得るために、動物の血液が必要なのです。体温や二酸化炭素などで動物を探し、血を吸うために寄ってきます。

蚊が血を吸う時に、こちらに送り込んでくる唾液は、刺した時に痛みを感じさせない麻酔作用や、血が空気にふれて固まるのを防ぐ作用などを持ついろいろな成分が含まれています。この唾液腺物質が、刺された後の腫れや痒みの原因です。

■蚊アレルギーとは?
蚊に刺された場所では、注入された唾液腺物質に対するアレルギー反応がおこります。反応の強さによって症状が異なり、個人差が大きいのが特徴です。

このアレルギー反応には2種類あります。

即時型反応:刺された直後からかゆみ、腫れ、発赤が出現
遅延型反応:刺された翌日以降に発赤、腫れ、発疹、水疱などが出現

特に乳幼児は体温が高いので、蚊に狙われやすく、強い遅延型反応を起こすことが多いと言われています。時に重症化する蚊アレルギーがあり、蚊に刺された部分の発赤や腫れだけでなく、全身に発熱、蕁麻疹などの全身症状が出てきます。

■重症化する原因の1つ「EBウイルス」
EBウイルスとは、水疱瘡などのウイルスや、ヘルペスウイルスの仲間です。発見者の名前にちなんで、この名前がつけられています。EBウイルスは、1歳で12.5%、2歳で60%、20歳までに90%以上が感染すると言われています。唾液を介して人にうつります。

蚊刺過敏症とは、蚊に刺された後の部分の症状が強く、水泡(みずぶくれ)、血泡(ちまめのようなもの)から壊死・潰瘍(皮膚がただれ、じくじくし、へこむ)まで起こり、発熱などの症状を伴うこともあります。原因としては蚊の唾液腺に対する免疫とEBウイルスに対する免疫反応が関与しています。発熱だけでなく、リンパ節が腫れたり、下痢などがみられることもあります。

蚊刺過敏症の場合、EBウイルスが持続的に感染していること(慢性活動性EBウイルス感染症)があるので、様々な合併症を起こします。悪性リンパ腫や血球貪食症候群(白血球、赤血球、血小板をマクロファージなどの白血球が食べてしまう病気)などを起こすと大変です。蚊アレルギーがひどい場合は、EBウイルスの検査をしておいた方がいいかもしれません。
(全身発熱にじんましんも……蚊アレルギーとは?)

蚊刺アレルギー


通常の蚊刺反応もアレルギー機序によりますが、蚊刺アレルギーの場合には、蚊刺により発熱、リンパ節腫脹、肝脾腫など全身症状を伴い、刺咬部は血疱・潰瘍形成し重症化する場合を指します。

原因蚊はイエカ属、ヤブカ属などで、好発年齢は14歳以下の幼小児で、大多数が日本で発症します。悪性組織球症、白血病などを併発し予後不良となります。

昆虫によるアレルギーは,アレルゲンの生体への進入経路により大きく2つに分けられます。
・虫体成分や排泄物が細かく破砕され空中を浮遊することにより吸入され、経気道的にアレルギー反応が発現される場合
・ハチ、蚊、蛾などの毒が経皮的に侵入し、毒素による反応以外にアナフィラキシー反応をはじめとしたアレルギー反応を示す場合


慢性活動性EBV感染症(CAH)とは


上記の慢性活動性EBV感染症(CAH)とは、以下の様なものです。
EBウィルス感染症とは、ヘルペスウイルス科に属するEBウイルス(EBV)の感染によって起こる疾患です。伝染性単核球症をはじめ、致死的伝染性単核球症、日和見リンパ腫、Burkitt(バーキット)リンパ腫、上咽頭癌、慢性活動性EBV感染症などの疾患の原因となります。

健常者の咽頭粘液からも10〜20%の頻度で検出されます。日本では、3歳までに90%以上が初感染を受けますが、そのほとんどが不顕性感染に終わります。初感染が学童期以降の場合に、伝染性単核球症を発症する確率が高くなるため、学童期から青年期での発症が多いです。

伝染性単核球症は唾液中のウイルスが感染して起きるため、思春期以降の症例ではキスを契機に発症することがあることから、kissing disease(キス病)あるいは大学生にみられるので、college diseaseの別名があります。

また、EBウイルスはBリンパ球に潜伏/持続感染し、宿主の免疫状態が抑制されると再活性化してリンパ増殖性疾患を生じることがあり、Burkittリンパ腫や上咽頭癌との関連性が示唆されています。

一方で、明らかな免疫不全のない個体にEBウイルスが持続的に感染し、さまざまな症状を呈してくることがあり、慢性活動性EBウイルス感染症と呼ばれています。

慢性活動性EBV感染症(CAH)は、EBVの初感染に引き続きウイルスが体内で増殖を続け(EBV感染細胞として)、種々の症状を引き起こします。

EBVの感染の主体がB細胞ではなく、T細胞やNK細胞(稀にB細胞も)に感染し、これらの感染細胞がモノクローナルな増殖をきたし、ついにはT cell lymphomaやNK cell lymphomaを発症し、極めて予後不良であるといわれています。

EBVがB細胞、T細胞、NK細胞のいずれに感染しているかが極めて重要であり、T細胞に感染するタイプは、T cell lymphomaを発症する危険が高いので、強力な化学療法や骨髄移植が治療の中心となります。NK細胞に感染するタイプは、蚊アレルギーの合併が多いといわれています。

【関連記事】
生活の中の医学