日経CME 2013年07月号に、「2013/2014シーズンインフルエンザHAワクチン製造株はこうして選定された」という記事が掲載されており、国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター第一室室長・小田切孝人先生がインタビューに答えられていました。

インフルエンザワクチンの製造株の選定方法と流れ


12月下旬頃、厚生労働省健康局長より、国立感染症研究所に製造株の選定依頼が出され、そこから製造株の選定を行うそうです。

選定する株は、以下のようなデータをもとに選定するそうです。
・直近の国内外での季節性インフルエンザの流行状況
・分離ウイルスについての抗原性/遺伝子解析の成績
・感染症流行予測調査事業による住民の交代保有状況調査の成績

これらのデータから翌シーズンの流行予測を行うそうです。

さらに、そこから候補株について、
・発育鶏卵での増殖効率
・抗原的安定性
・遺伝子的安定性

などのワクチン製造株としての適格性を検討するそうです。

また、世界保健機関(WHO)により2月中旬に出される北半球の次シーズンワクチン推奨株なども参考にして、3月末までに選定する、といった流れだそうです。

インフルエンザワクチンの予測と結果


2012/2013 シーズン季節性インフルエンザワクチンでは、選定された製造株は
・A型インフルエンザ
A/California(カリフォルニア)/7/2009(H1N1)pdm09
A/Victoria(ビクトリア)/361/2011(H3N2)

・B型インフルエンザ
B/Wisconsin(ウイスコンシン)/01/2010(山形系統)

であったそうです。

実際に分離されたウイルスは、
・A型インフルエンザ
A/H3N2 香港型 80.5%
A/N1H1pdm09 2.1%

・B型インフルエンザ(全体の17.4%)
B型インフルエンザ内での内訳は、
ビクトリア系統 32.3%
山形系統 67.6%

であったとのこと。これら分離されたウイルスと、ワクチン株の抗原性の一致率でいうと、A(H1N1)pdm09で95%、A(H3N2)で98%の一致率、B型では100%だったそうです。かなりの一致率ですね。

ちなみに、今年の2013/2014 冬シーズン用インフルエンザHAワクチンの製造株は、
・A型インフルエンザ
A/カリフォルニア/7/2009(X-179A)(H1N1)pdm09
A/テキサス/361/2012(X-223)(H3N2)

・B型インフルエンザ
B/マサチュセッツ/02/2012(BX-519)

となるそうです。どうして今年はこうした株になったのかというと、そこには卵馴化(たまごじゅんか)という現象が関係しています。

卵馴化(たまごじゅんか)とは


インフルエンザウイルスの培養には、鶏卵が使われています。

ワクチン株を卵に馴化させるため、その過程で抗原性が変化してしまい、ワクチンの元となる株と(野生株)と、流行株が一致していても、抗原変異した製造株でワクチンが作られるので、期待通りのワクチンの効果があるかは検証が必要だということです。

2012/2013 シーズン季節性インフルエンザワクチンでは、A/Victoria(ビクトリア)/361/2011(H3N2)が使われていました。実は、この株は卵馴化による抗原性の変化が大きく、このワクチンでの防御効果は低下していた可能性があったわけです。

そこで、A/Victoria(ビクトリア)/361/2011(H3N2) → A/テキサス/361/2012(X-223)(H3N2)に変更された、とのことです。ちなみに、ビクトリア株の方ではなんと100%変異してしまっていたにも関わらず、テキサス株では9%の変異に留まるとのことです。100%→9%なので、かなりの違いですね。

そして、B型の方もB/Wisconsin(ウイスコンシン)/01/2010(山形系統) → B/マサチュセッツ/02/2012(BX-519) に変更されています。こちらは、流行株の主流自体が変わったから、という理由だそうです。

ウイスコンシン株はグループ3に入っており、マサチュセッツ株はグループ2に入ります。グループ3と2の流行株は、抗原的に区別できるほど変化しているため、グループ3 → 2の株に変更した、とのことでした。

なお、来シーズン用のB型ワクチン株は山形系統から選定されましたが、ビクトリア系統が主流だった場合は、ワクチン効果はほとんど期待できないそうです。現在、日本国内で行われてるワクチンはA型2株B型1株のワクチンです。これではカバーできない可能性があります。

一方、アメリカで行われてるワクチン接種では、A型2株B型2株の4価ワクチンが販売開始されているようです。国内でも、4価ワクチンの実用化が必要である、と小田切先生は提言されておられました。

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