カメに触れたことを原因とする「サルモネラ症」の集団発生が米国で相次いでいるとして、厚生労働省はこのほど、ペットとして飼われているミドリガメなど、爬虫(はちゅう)類の取り扱いについて注意を喚起するよう都道府県などに要請した。

サルモネラ症は、サルモネラ菌に汚染された食品を食べたり、手や指に付着したサルモネラ菌が口に入ったりして引き起こされる感染症。通常は8〜48時間の潜伏期間を経て発症し、急性胃腸炎による食中毒症状が現れる。まれに菌血症や敗血症、髄膜炎などを起こして重症化し、死亡することもある。特に免疫力の低い新生児や乳児、高齢者は注意が必要だ。

厚労省によると、米国では2011年5月からこれまでに8件の集団発生があり、計391人の患者が報告された。患者の29%が入院したが、死亡者はいない。患者の70%は、発症前にカメとの接触があったことが確認されているという。

もともとカメなどの爬虫類は、50〜90%がサルモネラ菌を持っているとされ、国内でも毎年のように爬虫類から感染した患者が発生している。特に米国から輸入され、ペットショップなどでミドリガメの名称で販売されているミシシッピアカミミガメは、多くのケースで感染源となっている。

厚労省は、感染を予防するため
1)カメなどを触った後はせっけんを使って十分に手洗い
2)飼育水にはふん便とともに排せつされた菌が多量に含まれている可能性があるため、排水で周囲が汚染されないように注意
3)子どもや高齢者、免疫機能が低下した人がいる家庭では飼育を控える

などを呼び掛けている。
(サルモネラ症で注意喚起 ペットのカメが感染源に)



サルモネラ症とは


サルモネラは菌種の代わりに血清型で分類されます。現在、2,300以上ありますが、ヒトによくみられるのは約20種の血清型です。サルモネラの保菌動物は多く、食肉、卵、乳製品などの食品、ミドリガメ、イヌ、ネコなどのペット、ヒトの患者、保菌者などが感染源となります(人獣共通感染症であるため制圧は困難)。

Salmonella Enteritidisがここ10年間最多を占め、鶏卵関係食中毒に多いです。以前は、S.Typhimuriumが多かったですが、現在では第2位となっています。

1)胃腸炎、2)菌(敗)血症、3)局所感染症、4)チフス症、5)保菌者の異なる病型があります。胃腸炎が最も多いですが、胃腸炎に2)菌(敗)血症、3)局所感染症の合併、1)〜4)群の病後に保菌者となるなど、病型を単純に分けられないこともあります。

サルモネラは食品衛生法に基づく食中毒菌であり、行政的な調査・対応が必要な場合には保健所に24時間以内に届け出る必要があります。特に腸チフス、パラチフスは2類感染症であり、直ちに保健所に届け出る必要があります。

従来、発症には10^6〜10^9個程度の大量の菌が必要とされてきましたが、実際には10^1〜10^4の少ない量でも発症することがわかっています。年齢の両極端である小児と高齢者、基礎疾患をもつ易感染性宿主が罹患しやすく重症化しやすいため、予防が重要となっています。

サルモネラ感染症の治療


治療は、対症療法が原則となります。下痢がみられるため、輸液は十分に行いますが、強力な止痢薬は除菌を遅らせるので避けます。

サルモネラは試験管内では多くの抗菌薬に感受性ですが、実際に有効な薬剤はアンピシリン(ABPC)、クロラムフェニコール(CP)、ST合剤、ニューキノロン薬、ホスホマイシン(FOM)、一部の第三世代セフェム薬(セフォタキシム、セフトリアキソン、セフォペラジン)に限定されています。

耐性菌出現の問題と抗菌薬が腸内常在菌叢を乱し除菌が遅れるため、基本的には単純な胃腸炎には抗菌薬を投与しません。ただし、易感染性宿主や重症例に対しては適応があり、その際にはニューキノロン薬、ABPC、FOMが選択薬であり、3〜5日、長くても1週間の経口投与を要します。腸管外感染の場合にはチフス性疾患に準じます(CP、ABPC 、ST合剤が選択薬であり、耐性菌の場合にニューキノロン薬、一部の第三世代セフェム薬が用いられる。常用量の4/3量を2週間経口投与する方法が一般的)。

まずは予防が大事です。特に食品を扱う際には、手洗いはもちろんのこと、しっかりと器具の消毒や食肉の熱処理を見直していただければと思われます。

【関連記事】
サルモネラ菌による食中毒を防ぐ方法