ヒトの胃の中に生息し、胃がんや慢性胃炎などの一因とされるピロリ菌は、深海底の熱水噴出口に生息する特殊な微生物が祖先だったことが、海洋研究開発機構のゲノム解析で分かった。ピロリ菌の病原性や進化の仕組みを解明する手掛かりが得られるという。2日付の米科学アカデミー紀要(電子版)に発表した。同機構極限環境生物圏研究センターの中川聡研究員らは、沖縄近海の水深約1000メートルの熱水噴出口から、2種類の微生物を採取。ゲノム(全遺伝情報)を解読して性質を詳しく調べた。
その結果、いずれも「イプシロンプロテオバクテリア」と呼ばれる細菌の仲間で、ピロリ菌の近縁種と判明。遺伝子の塩基配列の分析から、ピロリ菌の祖先にあたることを突き止めた。両者は約14億年前に枝分かれしたとの説があるという。
この細菌は熱水に含まれる硫黄などを栄養源に生きている。病原性はないが、貝類など他の生物に寄生する能力が高く、感染性に関する遺伝子の一部はピロリ菌と共通していることも分かった。
中川研究員は「過酷な環境に生きる深海底の微生物がピロリ菌の先祖だったとは驚きだ。共通する遺伝子の働きを抑えることで、ピロリ菌の抑制に役立つかもしれない」と話している。
(ピロリ菌、先祖は14億年前の深海細菌)
ピロリ菌ことヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)は、ヒトなどの胃に生息するらせん型の細菌です。1983年 オーストラリアのロビン・ウォレン(J. Robin Warren)とバリー・マーシャル(Barry J. Marshall)が、「自らを実験台にして」発見したことは、CMにもなり有名でしょう。
胃の内部は胃液に含まれる塩酸によって強酸性であるため、従来は細菌が生息できない環境だと考えられていました。ですが、ヘリコバクター・ピロリはウレアーゼと呼ばれる酵素を産生しており、この酵素で胃粘液中の尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解する。このとき生じたアンモニアで、局所的に胃酸を中和することによって胃へ定着(感染)しています。
ヘリコバクター・ピロリの感染は、慢性胃炎、胃潰瘍や十二指腸潰瘍のみならず、胃癌やMALTリンパ腫などの発生につながることが報告されています。細菌の中でヒト悪性腫瘍の原因となりうることが明らかになっている唯一の病原体です。
ピロリ菌は幼児時に経口感染し、胃に数十年すみ続け、慢性胃炎を起こします。日本では40代以上の7割が感染しているといいます。胃がんでは最も重要な発がん因子であることが判明していましたが、最近、ピロリ菌が、胃粘膜細胞をがん化するために、通常は免疫細胞にしかない「AID」と呼ばれる酵素を利用していたことを突き止められています。
こうした不可思議な細菌が、実は深海からやって来たというのは驚きです。ともに住むには難しい環境ですが、その分、ライバルがいないので繁殖しやすいということなんでしょうかね。
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