日本の厚生労働省が「原則禁止」の指針を打ち出した腎がん患者からの病腎移植。だが、日本から多くの医師が研修に訪れる移植先進地、オーストラリア・クイーンズランド州では、州政府による公的システムとして病腎移植のネットワークが運営され、日常の医療になっている。
PA病院では1996年以降、既に42人がポールと同じ手術を受けた。提供された病腎の摘出は州内の8病院で行われ、広域の提供システムができあがりつつある。さらに昨年以降、シドニーのロイヤル・プリンス・アルフレッド病院などでも3例行われるなど、他州に拡大しつつある。
がんの再発を招く恐れのある病腎移植が、なぜこの国では容認されるのか−。その答えはごく単純で合理的だ。キーワードは「リスクの比較」と「生活の質」。腎機能が低下する腎不全の症状を根本的に改善する方法は、透析と腎移植の2つしかない。豪で透析患者が移植を受けられるまで待つ期間(待機期間)は4〜5年だ。透析患者は年8%のペースで増えるのに、死体腎のドナー(臓器提供者)数は増えないため、待機期間は長くなる一方だ。
移植待機中の透析患者の年間死亡率は平均16%。この数字は60歳以上だと25%に達する。原因の多くは透析による合併症。ポールと同じ60歳以上の患者の4人に1人が毎年、移植を受けられずに亡くなっていくのだ。
一方、4センチ以下のがんが見つかった腎臓から、がんの組織だけを部分切除して腎臓を温存した場合、がんが再発する割合は5%前後だ。腎臓は人体に左右一対あり、片方を摘出しても機能は失われないため、多くの腎がん患者は、部分切除より再発リスクの低い腎臓摘出を希望する。
こうして摘出された病腎をもらうか、それとも死体腎を待つか。5%の再発リスクと、年間25%の死亡リスク。ポールら患者はこの2つのリスクについて説明を受け、自ら選択する。これまでに病腎移植を拒否した患者は20人中1人程度だという。
同州の病腎移植は、対象患者を65歳以上に限定して始められ、現在は60歳以上に引き下げられた。待っているうちに死んでしまうリスクの高い高齢に絞っているのだ。リスクの差が大きくなるからだ。リスクの問題だけでなく、患者を透析生活から一日でも早く解放することが、生活の質を豊かにするという点で、この国では重視されている。
(移植リスクの比較 「生きる」ために選択)
厚生労働省は2007年07月12日、治療のために摘出した腎臓を移植治療に使うことを原則禁止する臓器移植法の改正運用指針を通知しました。これにより、病気腎移植は「臨床研究以外は、行ってはならない」と治療への利用を原則禁じされています。
一方で、オーストラリア・クイーンズランド州では、州政府による公的システムとして病腎移植のネットワークが運営され、日常の医療として取り入れられているとのこと。たしかに、対象年齢は60歳以上とのことで、制約はあることや、5%の癌再発リスクを抱えていることなど、障碍となることも確かにあります。ですが、人工透析患者さんの年間25%の死亡リスクと天秤に掛けると、病気腎移植を選ぶ人が多いようです。
死亡リスクの他に、「生活の質(QOL)」のと関連して人工透析の問題も関係しています。腎臓の機能が廃絶している場合、血液透析では週に3回程度、毎回最低4時間透析をする必要があります。腹膜透析の場合、腹腔にカニューレを留置し、一日に数回腹腔内に透析液を注入・交換する必要があります。
こうした生活の質(QOL)を大幅に下げてしまい、不便な思いを強いられる人工透析から、離れたいという患者さんの強い思いも、こうした移植腎の問題を複雑にしています。病気腎の移植には、リスクがあります。ですが、何とか普通に生活したい、仕事をしたい、という方々が多いのも実情です。
こういった「思い」を、日本のように果たして最初から法規制によって絶ってしまって良いのでしょうか。実際に病気腎移植を行っている、医療現場での様子、そしてそこでQOLを改善した患者さんの様子をみて、無下にしてしまっていいのか、と思われます。
国内では、糖尿病性腎症が原因となり、人工透析を導入せざるをえない患者さんが大勢います。移植腎が絶対的に不足している今、是非とももう一度議論をしていただきたいと思われます。
【関連記事】
病気腎移植:がん疑いの腎臓移植 64歳母から息子に
「病気腎移植、国も原則禁止」厚労省が改定案を公表
「臓器移植法改正案」与党合意へ
PA病院では1996年以降、既に42人がポールと同じ手術を受けた。提供された病腎の摘出は州内の8病院で行われ、広域の提供システムができあがりつつある。さらに昨年以降、シドニーのロイヤル・プリンス・アルフレッド病院などでも3例行われるなど、他州に拡大しつつある。
がんの再発を招く恐れのある病腎移植が、なぜこの国では容認されるのか−。その答えはごく単純で合理的だ。キーワードは「リスクの比較」と「生活の質」。腎機能が低下する腎不全の症状を根本的に改善する方法は、透析と腎移植の2つしかない。豪で透析患者が移植を受けられるまで待つ期間(待機期間)は4〜5年だ。透析患者は年8%のペースで増えるのに、死体腎のドナー(臓器提供者)数は増えないため、待機期間は長くなる一方だ。
移植待機中の透析患者の年間死亡率は平均16%。この数字は60歳以上だと25%に達する。原因の多くは透析による合併症。ポールと同じ60歳以上の患者の4人に1人が毎年、移植を受けられずに亡くなっていくのだ。
一方、4センチ以下のがんが見つかった腎臓から、がんの組織だけを部分切除して腎臓を温存した場合、がんが再発する割合は5%前後だ。腎臓は人体に左右一対あり、片方を摘出しても機能は失われないため、多くの腎がん患者は、部分切除より再発リスクの低い腎臓摘出を希望する。
こうして摘出された病腎をもらうか、それとも死体腎を待つか。5%の再発リスクと、年間25%の死亡リスク。ポールら患者はこの2つのリスクについて説明を受け、自ら選択する。これまでに病腎移植を拒否した患者は20人中1人程度だという。
同州の病腎移植は、対象患者を65歳以上に限定して始められ、現在は60歳以上に引き下げられた。待っているうちに死んでしまうリスクの高い高齢に絞っているのだ。リスクの差が大きくなるからだ。リスクの問題だけでなく、患者を透析生活から一日でも早く解放することが、生活の質を豊かにするという点で、この国では重視されている。
(移植リスクの比較 「生きる」ために選択)
厚生労働省は2007年07月12日、治療のために摘出した腎臓を移植治療に使うことを原則禁止する臓器移植法の改正運用指針を通知しました。これにより、病気腎移植は「臨床研究以外は、行ってはならない」と治療への利用を原則禁じされています。
一方で、オーストラリア・クイーンズランド州では、州政府による公的システムとして病腎移植のネットワークが運営され、日常の医療として取り入れられているとのこと。たしかに、対象年齢は60歳以上とのことで、制約はあることや、5%の癌再発リスクを抱えていることなど、障碍となることも確かにあります。ですが、人工透析患者さんの年間25%の死亡リスクと天秤に掛けると、病気腎移植を選ぶ人が多いようです。
死亡リスクの他に、「生活の質(QOL)」のと関連して人工透析の問題も関係しています。腎臓の機能が廃絶している場合、血液透析では週に3回程度、毎回最低4時間透析をする必要があります。腹膜透析の場合、腹腔にカニューレを留置し、一日に数回腹腔内に透析液を注入・交換する必要があります。
こうした生活の質(QOL)を大幅に下げてしまい、不便な思いを強いられる人工透析から、離れたいという患者さんの強い思いも、こうした移植腎の問題を複雑にしています。病気腎の移植には、リスクがあります。ですが、何とか普通に生活したい、仕事をしたい、という方々が多いのも実情です。
こういった「思い」を、日本のように果たして最初から法規制によって絶ってしまって良いのでしょうか。実際に病気腎移植を行っている、医療現場での様子、そしてそこでQOLを改善した患者さんの様子をみて、無下にしてしまっていいのか、と思われます。
国内では、糖尿病性腎症が原因となり、人工透析を導入せざるをえない患者さんが大勢います。移植腎が絶対的に不足している今、是非とももう一度議論をしていただきたいと思われます。
【関連記事】
病気腎移植:がん疑いの腎臓移植 64歳母から息子に
「病気腎移植、国も原則禁止」厚労省が改定案を公表
「臓器移植法改正案」与党合意へ